岡 寛

重い録音機を抱え、音を探して歩き回る。カミナリ、ライオン、サイレン、ただの音響にすぎぬ無意味さへの努力が芝居創りを通じてどれ程の意味となって私に、人々にはねっ返るであろうか。
現代の英雄は行動人である。だが私達は多忙の快い疲労感にのみ酔ってはならない。忘れられたものへの努力、芸術に連なる表現の中で、私達の思考と行動の結果として何を表現しようとするのか。各個人の中でそれをひっさげて参加する問題と、その情熱に答え得る新しい芝居創りへの努力を、私達は今一度、素朴なところから始めねばならぬ。

鍵谷 孝

気狂いが群がって、何だか、やっさもっさと騒いでいます。一人の男が通りかかって、鼻さきにシワを寄せ、ふん、とせせら笑うと、そそくさと立ち去りました。また別の男がやって来ました。彼はじっと狂人どもの喧噪ぶりをながめていました。が一瞬ギクンと棒立ちになりました。俺があそこにいる。気狂い仲間と一緒に踊っている。彼は足下を見ました。彼の影はありませんでした。それはとりもなおさず、彼自身が影にすぎぬ存在だということの証明にほかなりませんでした。

山脇 正邦

実はといえば身から出た錆で、空に浮かんだ雲の流れを人の心と悲しんだり、とかくこの世は諸行無常の儚さとか、いい気な想いにふわふわと漂っていたやつが、ふと気がつくと、とんでもない卑劣極まるペン師野郎に身も心犯されて、むなしくあがこうとしたけしき、悪妻に立ちむかおうとする気弱い夫の悲愴さに似たのだが、それでもこいつ、この頃はすっかり諦めきったふぜいで、頭に来た一時の気合いどこへやら、唇をついて漏れる言葉いつもとまさって物悲しく「つらくってかなわねえ」

谷垣 克子

「娘」を演じるにつけ、私は展望台から多数の人間を突離して、客観視する時のやりきれなさと、現実を満喫しきっているホテイ面をペンカンコとしぼます快感を同時に味あう。世の男性諸氏は「娘」みたいな女の子を恋人にもつ気になど毛頭なれないだろうし、また持ち切れないだろう。彼女には愛とか、真とか、誠実とか、およそ奇妙な雰囲気をかもす言葉はてんで通用しないし、その澄んだ鋭い瞳は泥臭い彼らが抜け殻になるまで追求を緩めないからだ。しかし私には同姓のよしみかも知れないが、一服の清涼剤の希少価値を持っている彼女が是非とも私達の周囲には、必要な存在であると思われるのだが……。

能川 公一

娘は人生が複雑であるといって、自ら人間になることを放棄して「ウエー」になりました。しかし、それでは人生が解らぬという理由で自殺するのと等しく、自殺した娘には人生は永遠に解らず仕舞いに終わるでしょう。人生が簡単に解るとは思いませんが、与えられた現実の中で、一歩一歩人生の謎を解いていっても遅くはありません。それでいて人生の醜い面に慣れっこになり、妥協づくめに終わるのではなく、青年らしい新鮮な態度を持続していきたいものです。でも娘の生き方を「美しい」と思い共鳴を感じるのも事実です。

萩原 帝二

「人生は再び繰り返さない」これは当然なことです。自分は幾度もおくりたいと思った。できるのです。演劇です。劇は人生です。幕が上がる。生まれ出た感じです。しかも演劇部「つのぶえ」の人々の心優しさは格別です。チームワークは兄弟のようです。「つのぶえ」は、そんな演劇だと強く感じました。先輩の御協力をおねがいし「つのぶえ」発展に微力をふるいたいと思います。

笹川 宏子

私の演じたウエーは、特にやりがいのある役でしたが、それだけにむつかしいものでした。というのは、あるせまい範囲しか動く事のできない難点をもっていました故、又ウエーの中に今日の社会に似かよったものを見ることができると思います。私はこのウエーを見た時、あのチャップリンに見る喜劇を思い出さずにはおられませんでした。

奥村 英忠

世はまさにスピード時代、運ちゃんといえども神風タクシーならずばノルマは上がらず、生命の危険にはさらされる。交通事故のノイローゼになる。これも資本主義社会の矛盾のなせる禍か?なんてことは考えなくても、こっちは自家用車の運転手。閣下々々とおだてていりゃまあ食いはぐれはないというものさ。しかし可愛い娘と結婚するとなりゃ、ちったあ欲も出るのが人間というものさ。頭はあまりよくないが、腕はたしかだ、いい口があったらたのむぜ。

高崎 継義

大臣のセリフにこんなのがあります。「芸術はどこかに未来につきぬけて行く明るいものがなければならない」と。一体この劇には、そんな所がどこにあるのかすべての人間が檻の中に入れられた後、娘がただ一人、新しい生活を求めてさまよい出て行く。それを救いと見るのは誤りだろうか。現実を否定した娘は、遂に発狂せざるを得なかった。それは逃避であり、敗北でもあったろうが、ウエーという新しい人間を生きていく娘の姿に、僕は救いを感じるのです。

小谷 浩

舞台監督!なんていい名前なんでしょう。そして、アアなんてつらい仕事なんでしょう。……サインだ!ベルだ!ライオンのアクビだ!……ああ、ややこし。そこで娘がいいました。「ややこしすぎるのよ」と。どなたか猫をお飼いの方があったら、それをお貸し下さいませんか……「何故?」だってよくいうじゃありませんか「猫の手も借りたいほど忙しい」だって。え!閣下の動物園にいるだろうって?……いやそれが、すりつぶしてライオンのエサにされちゃいました。ハイ。

門口 哲雄

今俺の歩いているのは気狂いになる道なんだと、私は夢の中で思った。そしてあそこの角まで行ったら、娘が現れて、はやく気狂いになりなさいとささやくのも、夢を見る前から知っていた。そこから百米ほど行っただろうか、大きな川に出た。俺が裸になってとびこもうと思った時、むこう岸でこういっている閣下の声を聞いた。「太郎の奴め……」で俺は水の中にもぐってやった。次に水の上に顔を出したら、娘が顔を近づけて笑いながら、貴男は助かるかもしれないといった。俺はよくわからなかったが「うん」といっておいた。今目がさめて考えてみても、さっぱりわからんのだが。
(パンフレットより)


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