―稽古場の片隅―

櫻井 宗和

単純な人間になりたいといつも思う
理解しやすいとか複雑でないとか云う意味ではなしに、あらゆる不純物を焼きつくし、いっさいの無縁無用のものを取りはらったかたちの純一無雑というか、そんな人間になりたいと思う。僕の一生は、おそらく単純な人間になる為の努力の集積だろう。

綛元 佐枝子

春は希望の帰ってくる時だと人の云う。だが私にとっては、むごい時でもある。
飛立ちたいような若やぐ生命感をまた机の前に縛りつけねばならぬと知らされて、
”そう今年こそ………”
だが私は知っている、来春にもきっとまたこの様に思うだろうことを。

春に思うこと…………西尾 雅一

駅は花見客で一杯だ。
その中に黒い学生服を着た一人の男、僕………、
今日も朝から芝居の練習だ。
ちょっとした心の矛盾
「俺の方があの人達よりも素晴しい生活を…………」。
とはどうしても云えない。
そうした悲しみ、そうした苦しみ。

月の語る……………小田切 成明

明るい月を見ると、妙なことに自分の孤独さを痛感する。その繰り返しの中で孤独さの中に淋しさを覚えると同時に、喜びも掴もうとする。それはやり切れないあの淋しさを、実感として感じ様と努める事によって、自己の存在をそこに意識出来る喜びなのだ。
ところがその時の私と云えば、自分が感じ取ったそれは決して「孤独」そのものではなく、「孤独」さなのだと自分に言い聞かせ、問いたずねる有様である。

大橋 也寸

ジャン・コクトオは当たり前のことを云うなってことに気がつきました。 当たり前でも大切なこと。
例えば彼は云います。
美しいものは易しそうな様子をしている。
公衆が軽蔑するのはこれだ。
と。
だからこの文章は美しいと云う訳には…………。

演技者のたわごと………山田 安

一度自分の舞台を観たいものです。自分が舞台でどんな馬鹿げた行動をしているか、それを観ることが出来たらと思うのです。
舞台の三要素 ―自分は何をしているか、何故しているか、どの様に行っているか―を忘れない様にといくら注意しても駄目なんです。それが出来れば、僕自身の生活ももっと有機的に、そしてより合理的になるに違いないのです。
演劇って芸術はやっぱり素晴らしいです。

稽 古 場 …………………高崎 継義

部屋いっぱい、ねずみ色の蒸気が充満している稽古場に、糸を引く様な演出者の視線が走る。
黒い影の棒立ち、荒い足音、押さえつけのみこまれたセリフ、投げとばされた笑声。ただれた様な夕日に、首筋からねずみ色の蒸気が吹き出す。
そして………。
ざらざらの暗転。

梶木 洋子

1ベル。メイクする私の手が目に見えて焦燥を帯び、誰かの長い手が私の頭をギュッとおさえる。離して!が猶も手に力が加わり髪がしばりつけられる。
ああ、2ベルが……。私は階段をすべり降り、廊下を走り、舞台にとび出した。観客と、そしてキャストの目までが私に集まった。
波のどよめき、明らかな嘲笑、ハッと私は自身を見下した。
ああ衣裳が……ない。私は片足でつっ立っていた。
こんな夢を見ました。

池田 克彦

「万物は流転する」ギリシャの偉大なる哲人ヘラクレイトスが云った。
「きつねうどん」「たぬきおやじ」「ふるだぬき」「おふる」「ポンちゃん」と我輩の悪友共が呼んだ。
「……ウン。成る程」と我輩は思う。
(パンフレットより)


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